Slow Curve

○ 2026.08.10

第3回:スパイスの殴り合い ── ヨコオタロウ×じん、破壊と創造の煮込み工程

■「青春」といえばじんさんだった

――その後さらに強力な「素材(スタッフ)」が投入されます。


尾畑:2020年9月にじんさんが加わりました。プロットが24話分上がったタイミングでした。このあと「物語として成り立たせるために、脚本家が必要だよね」と。ヨコオさんからも「50歳が書く若者像には無理があるから、若い価値観にしてほしい」というオーダーがあったんです。それでじんさんに声をかけたら、興味を持ってくださって。


――ヨコオさん自身が脚本をやるイメージはなかったんですね。


瀬下:全然なかった。忙しかったですからね。そんななかで、青春といえばじんさんみたいなところが企画とフィットしそうな気がして。それと、じんさんがヨコオさんのファンだったということもありました。

――じんさんは作家でもあるわけですから、皆さんの個性がぶつかりすぎるんじゃないかと思うのですが。


尾畑:いや、みんなもう個性が強すぎて(笑)。ぶつかる心配は、正直していました。
瀬下:でも、尾畑さんと二人で笑って「好きなふうにやっていいですよ」と言ったんです。そうしたら……。
尾畑:本当に好きなことをやってきたんです(笑)。

思い出し笑いの尾畑P

■交錯する個性

瀬下:じんさん、ヨコオさんが書いていたプロットをガン無視していたんですよ(笑)。


――ええ!? そうなんですか?


瀬下:一言でまとめると、じんさんはヨコオさんの二次創作をやろうとしたんです。「ヨコオタロウならこうするはずだ」と。

こちらも思い出し笑いの瀬下監督


――会議という「煮込み」の段階で、味がどんどん変質していったわけですね。お二人はその瞬間はかなり慌てたんですか。


尾畑:ゲラゲラ笑いながらも慌ててました。どうしようって(笑)。でも面白かったですし、ヨコオさんも「じんさんがポジティブに良くしようと思って変えてくれているのが素晴らしい」と。じんさんの熱量は相当なもので、(じんさんの)マネージャーが「これは本気だ」とおっしゃるくらいだったんですよ。
瀬下:強烈に憶えているのは、じんさんが自分自身の前回OKだったプロットも変更してきた時です。ヨコオさんが爆笑しながら「じんさん、俺ここにいるんだけど!」と(笑)。じんさん、自分が作ったものも「違う! これじゃない! ヨコオさんはこうはしない」って変えてくるんですよ。そこにヨコオさんがいるのに(笑)。もうみんな唖然です。ただ誤解がないように言っておきますが、じんさんは決して言うことを聞かないクリエイターではなく、ものすごく僕のディレクションを尊重してくださっていました。そこは非常にやりやすかったです。


尾畑:制作面では、2021年3月にじんさんのプロットが上がった際、物量がオーバーして「このままでは制作できない」という議論もありましたね。そのあたりは現実的に落とし込むためのバランスをとりつつ……。
瀬下:それでもヨコオさんは「やりたいようにやってほしい」と。

■大久保篤による「カルト」なデザイン

――キャラクターデザインに大久保篤さんを起用しようというのは、どなたの発案だったのですか。


尾畑:僕です。大久保さんって、嫌な顔をしながら笑う表情が上手いんですよ。ヒーローがする顔じゃない。それがいいんです。今回の企画のテイストや世界観に合っていそうだと思ったんですよね。少年誌のキャラクターの佇まいでやった方が面白いかなと。


――それで大久保さんに会いに行かれた。


尾畑:企画説明をしたら面白がってくれて。その場でアイデアが出てきたんです。講談社も直接やっていいですよと。そこでメインスタッフが決まりました。
瀬下:ほぼ一発OKでした。あんなにマニアックな感じのデザインはなかなかなくて、すごく楽しかったです。


――マニアックな感じとは?


瀬下:制服タンクトップとかね。自分の作品はご存知の通り、ちょっとニッチでマニアな感じで。自分もそこに面白さを感じているので、できたらちょっと変わったのをやりたいと思ってました。大久保さんのデザインはそんな自分の感性にフィットしました。

<第4回に続く>