Slow Curve

○ 2026.08.04

第2回:隠し味は「直感」 ── プロデューサー尾畑聡明の「成立させる」技術

料理人としてのスロウカーブ ――カレーの調理場より

■「選んでいる」のか「選ばされている」のか


――お待ちかねのカレーが到着です。


瀬下:いいですね! 特濃スパイシー! カレー大好きなんですよ。

瀬下監督メインディッシュのひと口め


――やっぱり辛いカレーが好きなんですか。


瀬下:もちろんです。でも、本当はバターチキンも好きです。カレーには辛さを求めがちですけど、たまに優しくて甘いものも欲しくなる。わがままですね(笑)。あ、ラッシー飲みますか?


――ありがとうございます、いただきます(笑)。(ラッシーを飲みながら)、企画書はまさに料理で言うレシピ。スパイシーにも甘めにもできる大切な行程だと思うのですが……。


――「神」、「アプリケーション」というワードや現代が舞台といったことは実際の作品にも反映されていますよね。現代劇が皆さんのイメージだったんですか。


瀬下:そこは尾畑さんの影響が大きかったんですよ。SNS時代、自分で選んでいるつもりが実は人に選ばされているんじゃないかと。そういう話題が多かったんです。当時の世相を反映したブレストが積み上がっていった印象はあります。
尾畑:確かに議論が飛ぶときは、いつもその話をして戻していました。これは娘に指摘されたんですよ。


――娘さんに。

尾畑:あるコンテンツについて、ランキングが上だったから「これって面白いんでしょう?」と娘に話を振ったんです。「え、お父さん(自身は)どう思ってるの?」と聞かれて、答えられなくて。自分が好きだから好きなのか、ランキングが上だから好きなのか、もうわからなくなっている時代なのでは、と。それは最終的に護郎が猫を助けようとしたけど、(周囲を気にして)身体が動かなかった。でも最後は自分で動いて助ける話につながっているんです。


――それは非常に重要ですね。


瀬下:神様になれるような人って、自分の願いではなく人の願いを叶えようとするんじゃないのかと。そんなふうに考えたんです。

■企画は「成立する」もの

――尾畑さんはプロデューサーとして企画を動かすときに、まずクリエイターとお話をするのが常なんですか。


尾畑:僕はそうしていますね。他のプロデューサーは、クリエイターがやりたいと言っていることをどう叶えるかと考える方もいると思うのですが、僕はスタートラインがクリエイターと一緒なんですよね。そこから探っていくんです。
瀬下:尾畑さんは引き出すのがうまいんですよ。生まれてくるストーリーの種をまずは並べて、そこから尾畑さんが企画としてまとめてくれる。それが当時の流れでした。

――企画が成立しない可能性もありそうですが、それはよかったのですか。


尾畑:え? 成立しない可能性?


――はい、そうです。


尾畑:ええっと、1ミリも考えてないです。「絶対させるんだ」じゃなくて「する」。
瀬下:尾畑さんは超能力者なんですよ。僕がお付き合いしているプロデューサーは、みんなそういう予感や直感の強い人なんです。理詰めでくるのではなく、いける「感じ」を大事にする人なんです。ヨコオさんなんか今でも飲みながら言いますから。「『カミエラビ』は、アニメになると思ってなかった」って。

――じゃあヨコオさんは確度が低い企画だと見積もって会議に参加されていたんですね。


瀬下:飲み会に誘われたから行っていただけですよね(笑)。だから尾畑さん力です。微塵も疑わない。「いけるはずだ」って。
尾畑: いや、だってそういうムードしかないから。武井さん(インタビュアーの名前)、その「成立しないかもしれない」というのが興味深くて。どうしていまそういう質問をしたんですか。


――それは私が成立しない企画を何本もやっていたからです。


尾畑:そうなんですか……。でも世の中、成立しない理由なんてない気がするんですよ。
瀬下:それは尾畑さんだからそう思うんじゃないですか(笑)。



<第3回に続く>