○ 2026.10.01
第3回:煮込みと盛り付け ── LAのコクを引き出し、シティポップで彩る極上の一皿
料理人としてのスロウカーブ ――カレーの調理場より
『Let’s Play クエストだらけのマイライフ』作品ページはこちら
■ロサンゼルスのロケハンがもたらしたもの
――全12話の構成については、どう整理されたんですか。
坂本:脚本の松井(亜弥)さんが、原作約75話分を12話に鮮やかに整理してくれました。原作は群像劇のような部分もあるのですが、本作はサムを中心に構成をしなおしています。また、サムにとっての「エピソード0」と位置づけ、その先を感じさせる構成にしています。
菅原:あと、アメリカのドラマであることをかなり意識した作りにしています。制作にあたってロサンゼルスで2回ロケハンを行ったんです。クランチロールのヘザーさんの机を撮影させてもらったり、あと1回目はヘザーさんが足を骨折していて、それをきっかけに病院に入らせてもらって写真を撮ってきたり(笑)。

ヘザー:松葉杖で階段を上り下りして案内しました(笑)。2回目はアニメエキスポに合わせて、エンディングに出てくるグリフィス天文台など、街の美しい場所もしっかり見ていただきました。ちょうどアメリカの独立記念日(7月4日)とも重なっていたので、街全体がとてもにぎやかで、お祭りのような雰囲気だったのも印象的でしたね。

――アニメエキスポでの宣伝も兼ねていたんですね。
坂本:ええ。アニメエキスポでは完成したばかりの第1話を持っていき、好評だったと思います。また、ロケハンの思い出でいうと、サムの家になりそうなアパートを実際に内見して、キッチンや暖炉なんかも見たりしました。それらを参考にいざ制作に入ると、スペルチェックが膨大に発生して、ヘザーさんに細かく確認してもらっていました。

ヘザー:小さな看板のスペルを修正してもらうこともありましたね。ロサンゼルスでは、メキシコをはじめとするラテンアメリカ系の方々が多く暮らしているため、看板などにもスペイン語がよく使われています。そこで『Let’s Play』の背景にもスペイン語を取り入れました。スペイン語圏のファンがそれに気づいてコメントしてくれたのは、とても嬉しかったです。
坂本:医療シーンの監修についてもヘザーさんにご協力いただいて…
ヘザー:実は私の家族に3人ほど医者がいたので、専門的な部分は家族に確認してもらいました(笑)。
■三つの世界設定と国際的な映像制作
――先ほど、えびもさんの話にもありましたが、本作には現実以外にも複数の世界が登場しますね。そのあたりのご苦労はありませんでしたか。
ヘザー:苦労は……ありましたね。現実世界、ゲームの「ワールド・オブ・ウォー・クエスト」、そしてサム自身が作ったゲーム。この3つの異なるデザインが必要だったんです。

坂本:これが本当に大変で! リーアンさんのデザインをベースに、そこから結構アレンジしたんです。現実だったとしても矛盾なく動かせるように、監督が徹底的にこだわりました。そもそも今回はサムの服のパターンも15種類以上用意して、毎回違う服を着せたりしているんです。そのあたりの設定関係はかなりこだわったところです。
菅原:それと、今回のオープニングは、神風動画さんとフランスのスタジオ「Bobbypills」がコラボして制作しています。これも新しい試みでしたね。

■データ分析に基づいた鮮烈なビジュアル
菅原:サム役の花澤香菜さんは「女性が憧れる女性」として満場一致でした。あと、サムの父・バウザー役は三宅健太さんなのですが、英語で「バウザー」は(「スーパーマリオ」シリーズの)クッパの呼び名なので、映画でクッパを演じた三宅さんにお願いするという、監督のジョークが入っています(笑)。
坂本:監督のこだわりでいうと、各話のオープニングに出るロゴのハートの数も、サムの感情に合わせて変化させているんですよ。
――音楽面では、久保田利伸さんとNight Tempoさんという布陣です。
菅原:作品に「トレンディな大人っぽさ」と「日本のポップさ」を融合させたかったんです。久保田さんの『LA・LA・LA LOVE SONG』制作時の実体験として、ナオミ・キャンベルさんが同じマンションに住んでいたというエピソードも聞いたのですが、作中のサムとマーシャルとリンクしているなって。少し鳥肌が立ちました。
坂本:Night Tempoさんは、打ち合わせをしたら猛烈なゲームオタクだと判明して(笑)。劇中ゲームの音楽を完璧に作り込んでくれました。久保田さんも声優としてカメオ出演してくださり、一言のために40テイクも重ねる熱量を見せてくれました。

――宣伝面では赤いキービジュアルの鮮烈さが印象的でした。

ヘザー:クランチロール側でデータ分析を活用した結果なんです。キービジュアルの背景を赤にするか青にするか、リサーチチームが「赤の方が目立つ」と論理的に導き出したんです。
坂本:同じ2025年の秋クールでどんな色が多いかも調べていただいて、クールな感じの色合いが多いから赤の方が目立つんじゃないかと。それもあって納得感を持って赤にできたと思います。
菅原:他に宣伝面ではインスタグラムを「花澤香菜さんのオシャレな生活アカウント」として運用して、そこから作品へ誘導したのも印象的でした。流入の98%が非アニメファン層で、これには驚きましたね。
■日本と海外を結ぶ新たな挑戦
――最後に、このプロジェクトを振り返っての感想をお願いします。
坂本:海外の面白い原作を、日本の技術でアニメ化して世界に返す。この「逆輸入カレー」の成功は、これからのアニメ業界の新しいチャレンジになったと思います。
ヘザー:多国籍な食材(要素)を、坂本さんというシェフがうまく調和させ、最終的には「本格的な日本のカレー」として仕上げてくれた。非常にやりがいのある挑戦でした。
菅原:日本のスパイス(感性)を隠し味に、世界中が「おいしい!」と言える一皿ができました。ぜひ、視聴のおかわりを何度でもしてほしいです。

取材・文/武井風太
2026年2月某日 SPICE LUNCH 渋谷店にて