○ 2026.07.29
第1回:レシピの種火 ── 『カミエラビ』という名の「無茶振り」が始まった夜
料理人としてのスロウカーブ ――カレーの調理場より
スロウカーブという会社は、アニメーションの企画・プロデュース・宣伝を担う、例えるなら「こだわりのカレー屋」だ。プロデューサーは料理人、作品はカレー。どんなレシピ(企画)を書き、どんな素材(スタッフ)を選び、どのように煮込んで提供するのか。
今回、その「調理場」の裏側を紐解くべく、アニメ『カミエラビ』の瀬下寛之監督と、スロウカーブのプロデューサー・尾畑聡明氏に話をうかがった。ヨコオタロウ氏、じん氏、大久保篤氏という、あまりにも強烈な個性がぶつかり合った本作は、いかにして煮込まれていったのか。そしていかに宣伝という盛り付けに至ったのか。カレー片手に、その軌跡を辿る。
■はじまりはいつもカレー、そして赤えび
――今回はカレーを食べながらスロウカーブについて語ろうという、割と不思議な企画になってまして……。
瀬下:じゃあ、メインのカレーを食べる瞬間はキュー出しをしてもらえますか。いい顔しますから……。

――そこまでカレー中心のインタビューではないです(笑)。今回がシリーズ第1回なんです。
瀬下:光栄ですね。僕、結構キレンジャー的なポジションなんで、こういう企画にはぴったりだと思います。(メニュー見ながら)あ、サラダください。
尾畑:健康に気を遣ってる(笑)。早くもキャラブレしてますよ。
瀬下:あとは……赤えびが大好きなんですよ! 食っていいですか。
――ぜひぜひ。食べながらで結構ですので、『カミエラビ』でスロウカーブはどういったことをしたのかについておうかがいできればと。
瀬下:(食べながら)ええ、ええ。『カミエラビ』ね。ヨコオさんとは、今しょっちゅう飲んでるんですよ。
尾畑:あ、最近お仕事されているんですか。
瀬下:もう月一ぐらいで飲んでますね。
――飲んでるんですね(笑)。

■企画の始動:「この方が監督ならやるよ」
――そもそも企画はいつごろから始まったんですか。
尾畑:まず前段があるんです。自分は宣伝プロデューサーとして、瀬下さんとは『シドニアの騎士』『亜人』『BLAME!』と、ずっと一緒だったんですよね。
瀬下:しょっちゅう会ってたから。
尾畑:だから、飲み会みたいな場で「これまでは宣伝として、瀬下さんの作品に関わってきましたけど、次は自分が企画としてやりたいですね」と振っていて。まあそれはその場で終わったんですけど。その後2018年の秋にヨコオさんと会ったんですよ。そこでヨコオさんに「監督をやりませんか」って話をしたんです。

――えっ! ヨコオさんに監督を任せるという発想だったんですか。ヨコオさんはゲームクリエイターですから、それはまた随分破天荒に思えます。
尾畑:そうだったかもしれませんが、ヨコオさんも興味はありそうだったんです。でも、ちょっと自信がないかなと。ただ唯一、僕とヨコオさんが企画をやって、この方が監督なら乗るよと言ってくださったのが……。
瀬下:僕だった、らしんですよ。ヨコオさんが『シドニアの騎士』のファンだったんです。
――おお!
瀬下:僕としては『ニーア オートマタ』のスーパークリエイターのイメージがあるから、最初尾畑さんから「ファンらしい」と聞いた時に、ちょっと簡単には信じられなくて、むしろ「これは僕に無茶ぶりするときのお世辞だよなあ」と思って。

――そういうことがこれまでもあったんですね(笑)。
瀬下:でも、そうじゃなかった。本当にちゃんと見てくださっていたんですよ。驚いちゃいました。
■「ジャンプ」になれないクリエイターが王道を作る
瀬下:で、一回三人でご飯に行きましたね。
尾畑:そうそう。その時はヨコオさん、もう「超忙しいです」と。なので「じゃあ飲み会やりましょうよ!」と言って。月一ぐらいで、企画を動かすんじゃなくて、飲みに行きましょうって。
――騙し討ちみたいですね(笑)。
瀬下:そこでヨコオさんと尾畑さんでやりたいことについての話をしていて、僕がナビゲートをして。僕、昔からメモ魔なんですよ。飲みながらあらゆるアイデアを全部議事録にまとめていたんです。
尾畑:で、それを無理やりまとめて企画書を作ったんですね。
――では、ここに一枚のレシピがあるので、ちょっと見ていきましょうか。
瀬下:おお、懐かしいですね。企画書の初稿ですか。

尾畑:三時間を五、六回やってやっとこの1ページ目となった感じだと思います。面白いアイデアは山のようにあったのですが、「ストーリーをまとめるとこういうことかな」と凝縮したのがこれなんです。視聴者に「これについていけてる俺かっこいい」と思わせたいという、尖ったレシピでしたね。
――当時の「レシピ」づくりはどんな雰囲気だったんですか。
尾畑:僕は毎回Ubereatsで何を頼むかを考えていて(笑)、台湾料理が少なかったとか、ヨコオさんにレバーが好評だったとか……。
瀬下:打ち合わせでは『インセプション』のサントラとかを裏で小さめに流すのが定番でした。昭和時代に彼女が部屋に初めて来た時みたいな、雰囲気づくりですね(笑)ヨコオさんは「ここで死んでもらいましょう」なんて言いながら、リアルタイムでアウトライナーに構成を書き入れていくスタイルなんです。
――最初の企画書では「王道的IPの創出」と書いてあるのですが、これは実際の『カミエラビ』とは全く違う方向性ですよね。
尾畑:それはあえて書いたんです。そもそも僕らは「週刊少年ジャンプ」にはなれないから、どうやっても王道にはならないと思っていたんですよ。王道とは反対のことをする人たちが、王道について考えれば、きっと面白いものができるだろうって。「どんな王道が来るかな」とほくそ笑みながら楽しみにしていました(笑)。
